tatsuro1973の日記

歌舞伎、文楽、落語を中心に古典芸能について綴ろうと思います。それと日々の暮らしについてもです。

京都南座 九月花形歌舞伎 東海道四谷怪談

九月に京都南座で南北の東海道四谷怪談がかかる。

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配役など

お岩 佐藤与茂七 小仏小平の三役を中村七之助 

民谷伊右衛門片岡愛之助 

直助権兵衛を市川中車 世間的には香川照之といったほうがいいかも

お袖7を中村壱太郎 が演じる。

東海道四谷怪談について

東海道四谷怪談鶴屋南北の代表作で世話物、町人やリアルに世相を芝居にしたもの の傑作です。初演のときに二日がかりで忠臣蔵のあとに上演されているので忠臣蔵のスピンオフとしてとらえたほうがいいです。

お岩の夫、民谷伊右衛門を塩谷家の家臣をして 忠臣蔵浅野内匠頭の家臣として描かれています。お岩と伊右衛門夫婦の話に忠臣蔵の世界に取り込んでこれにお岩の妹のお袖と直助権兵衛の畜生道の筋 兄妹相姦の話が入り組んだ物語である。

東海道四谷怪談は歌舞伎の作品のなかで怪談物といわれる幽霊がでてくる話であるが、幽霊といっても西洋のホラー作品のようで、ほかのものとは異なる容姿であるから恐ろしいのではなく、自分たちのやったことがめぐりめぐって自分たちに返ってくる因果をテーマにしている。同じ怪談物の牡丹燈篭にしてもしかりである。

伊右衛門が自分の幸せのためにお岩と伊右衛門のほうから別れることはできないので、

手伝いの宅悦にお岩に毒薬を飲ませて さらに宅悦に不義 不倫をけしかけ これを口実にお岩と別れて 自分は、主君の敵に当たる高師直の家臣伊藤家の入り婿として浪人生活から別れをつけようとするものの、お岩が真実をしり亡霊としてこの世に恨みを残して伊右衛門のせまり、亡霊によって伊藤家の主人と嫁を殺してしまう。お岩の亡霊に悩まされる。自分のやったことにたいする報いをいづれは受ける因果が東海道四谷怪談には見られる。お袖直助権兵衛の筋も、お岩の妹お袖欲しさに直助権兵衛は夫の佐藤与茂七を殺し、その夫の敵を討つとお袖に乞われて夫婦となるものの夫の与茂七が現れて

お袖が与茂七の手にかかり さらに与茂七の話からお袖と直助権兵衛が兄妹であることを知る。これを悔いて直助権兵衛は自害する。お袖直助権兵衛の筋も因果がめぐるストーリーである。

私個人は東海道四谷怪談を東京の歌舞伎座勘九郎のころの勘三郎のお岩 橋之助 今の芝かんの伊右衛門 八十助 三津五郎の直助権兵衛 扇雀のお袖で8月の夏芝居で見ている。

うだるような暑さの中で一等席で見たことが記憶にある。

衝撃的であったのは地獄宿のくだりである。

お岩は武士の娘とはいえ、日ごろの生活費を稼ぐために売春をやっているくだりをリアルに描いているところである。ましてや忠義の鑑といわれる忠臣蔵を題材にした作品である。武士とはいえ、生きるためなら身を売ることはいとわない、町人からみればただに格好つけの人間に過ぎないといわんとばかりの描き方である。

お岩の夫 民谷伊右衛門は自分の幸せのためなら付き添ってきた妻さえも暴力を振るい、毒殺をしてまでも離縁を成立させて、敵の家に入り婿に収まるような世間的にいえばとんでもない人物であるがどこかにくめない。

身分制社会で身分によって自分の生き方が決められてしまう江戸時代において、自分の本能を肯定していきたいように生きていく伊右衛門の生き方には身分のしがらみが亡くなった時代に生まれてきたとはいえ、魅かれるものがある。

そのためにお岩の亡霊に悩まされて、苦しめられていくのでありますが、自分の本能の赴くままに生きていく時代を超えたアンチヒーローであることは否めない。

関西では東京の作品、南北物が上演されることは目づらしい。

ましてや通しの上演である。

お岩を七之助が演じる。最近の七之助の充実ぶりには注目している。

八月に女形の大役 先代萩の政岡 九月に東海道四谷怪談のお岩と女形の大役を次々とこなしていくあたり 将来の立女形の道を着々と歩んでいるといったところである。

伊右衛門愛之助が演じる。10月に黙阿弥の三人吉三のお坊吉三を演じるなど愛之助も大役をこなしていくことで立役 座頭の向けて歩みだしている。

直助権兵衛を中車が演じる。新作を中心に役を演じてきた中車であるが最近は古典も演じていくことで芸の幅を広げている。直助権兵衛はそう出番はないが、穏亡堀などで世話物らしい風情のあるところをみせないといけない。この三人がどう演じていくのかがこの作品がうまくいくかどうかの鍵になっていくように思う。